所感

生活の所感を投稿します。

所有作品評論 大藏さん 芽吹きの風

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作品のみの写真は紛失 左:大藏さん、右:筆者

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芽吹きの風 P10 大藏沙也 ろうけつ染め

 

 5月4日 Up Jumped Spring展にて購入

 蝋結(ろうけつ)染めした繊維をパネル張りした作品である。当時は今よりも美的知識が無かったが、連作9点が展示されており、その存在感に惹かれ9点とも購入した。

 他の染色作品を観る限り(テキ作品で他に印象に残っているものがムサビ-藝大院出身の山本愛子さんの作品)、インスタレーションのように空間を横断させる作品、空間横断的ではなくとも、画面全面を鑑賞させようと吊るす作品が多く見受けられるが、大藏さんの作品は今回の連作のみならず多くがパネル張りされている。この試みが示唆するところは、油や膠を用いる平面作品と同列に鑑賞されようという趣があるのではないだろうか。

 平面が故に油画や日本画といった領域との差異が強調される。特筆すべきはマチエールである。マチエールは素材がもたらす視覚効果のことであるが、本来なら支持体として機能する布自体に色彩が置かれており、一見すると筆跡も凹凸もなく、素材感が画面全体に漂う。支持体自身の素材感を起点に作品がもたらす感覚は他の平面領域で得がたい物質感である。

 その物質感を後押しするものが展示方法である。9点の配置は一見無造作ながら底辺が床と平行になるよう保っており、モダニズム建築が並ぶようインダストリアルな印象を受ける。さらに、それぞれに描画された四角系の模様も作品全体の配置を各作品内部に落とし込んだようなフラクタル性がある。

 しかしマチエールと二重の四角形の配置による物質感が作品全体をミニマリスト的なベジタリアン・無機質さを主張するのかというと、決してそうではなく、支持体の素朴なマチエール、描かれる四角形はゆるいラインで、季節感をイメージさせる線模様と彩色に起因し、むしろ人肌のよう温かい印象を受ける。

 春をイメージした作品であるが、まだ冬の残り香漂う肌寒さから夏の青々しさまで一連の作品の間でグラデーションが起きており、その配色から実際に四季を感じるリアリティと共に人間的な温かみが感じられるのかもしれない。

  物質感と生命感がある温かさの双方に惹かれ、今より非常にイノセント(控え目な表現)だった私は購入意思決定をしたのであろう。

P.S.人の作品を勝手に評論するほど偉くないが、せめて自分が買った作品ならば許されるであろう。