所感

生活の所感を投稿します。

【小説】バトルロイヤル大学 ②

前回

「これっぽっちじゃどうしようもないっすね」

「仕方ない、とりあえず飲むか」

 現在7号館3階、ぬるいレッドブルを一気に飲み干すと、適当なデスクの上に放り投げた。カシャ、と音を立て残り汁を垂らしながら転がり、床に落ちた。

「6号館に移動するか。7号館2階部分は繋がってるし、7号館は今のところクリアしているから襲われる心配もなさそうだ」

「了解っす、とりあえずPCがある6号館6202教室に移動しましょ」

 階段を降りて2階部分に到達すると、6号館の連絡通路からこちらに人が走ってくるのが見えた。俺達は慌てて身を隠す。どうやら追われており、冷静沈着というよりは慌てた走りっぷりだ。そしてこちらには気づいていないようだ。

「土肥、こいつらが7号館に入った瞬間、やるぞ」

 土肥は頷く、俺と土肥の射線が交差しないよう、壁の一面に二人で固まる。あと5秒・・・、4、3、2。

「今だ!」

 俺と土肥は7号館に入った瞬間の二人を連続で発砲した。勢いが付いていた体は、持ち主が死んだ後も感性で動き続ける。前のめりに転倒した死体は床を2メートル滑り、壁面に激突した。激突した壁面に赤いバラが咲いた。持ち主の手を離れたコルト・ガバメントM1911がこちらに滑り込んできた。

「追手はいないようだな、室内なら外から狙撃される危険も無い。物色するぞ」

 出てきたのは、.45ACP弾とマガジン、グロック17、軽飲食料。それらをとりあえず土肥のリュックに収納すると、7号館2階、連絡通路に出た。直後左前方―1号館の方だ―に何かが反射するのが見えた。

 

・・・

 

「伏せろ!」

 パチン、と辺りの床が銃弾でめくれ、飛び散った。飛び散った破片が俺の脚部に命中し、出血した。

「スナイパーだ!」

 俺と土肥は慌てて遮蔽物に身を隠すが、7号館へ戻るには距離がある。拳銃で交戦するには遠すぎる。物資の中にはゼロインされたスコープがマウントされたライフルもあったということだ。初めからスナイパーライフルを手にした幸運な連中もいた訳だ。断続的に発射される弾丸が俺達が身を隠す遮蔽物に着弾し、パチン、パチンという断続的な破裂音が響く。僅かに遅れて発射音が聴こえ、スナイパーとの距離が100メートルほど離れている事を示唆していた。

「彼ら二人が逃げていたのはこういうことだったわけか!」

「いきなりピンチっすね。馬場さん、俺が打ち返すので7号館に入ってください! 後に続くので!」

「土肥、それはムチャだ! 100メートルもあるぞ、ハンドガンじゃまるで相手にならない」

「大丈夫っす、俺が死んでも馬場さんが生き残れば卒業できるじゃないですか、その為ならこの身惜しまないっすよ。今っす!」

 土肥は立ち上がり、反射するスコープー太陽はちょうど真南だ―が見える方角にベレッタを乱射した。激しい発砲音に混じり近くのコンクリートに着弾する音も聞こえた。俺はそれらを背後にして7号館2階へ滑り込んだ。土肥は15発撃ち終わると遮蔽物に隠れ、ベレッタの空マガジンを足元に落とし、ポケットから新しいマガジンを取り出しリロードをすると再び乱射を始めた。

「土肥、もういい、こっちにこい!俺がカバーする」

 俺は銃口だけを壁から覗かせ、土肥に射線が被らないようスコープの見える方向に乱射する。土肥は素早くこちらに滑り込んでくる。その足元には弾痕が次々と付いてゆく。その弾丸の一つが土肥の左腕に当たった、様な気がした。

「大丈夫か!?」

「大丈夫っす、掠っただけっす」

 土肥は破れたロンTの袖口から出血している。俺は先ほど射殺した、二つの死体の持ち物であったリュックから紐を取り外すと、回りのロンTの繊維をとりあえずの包帯替わりとして左腕に巻きつける。そのまま7号館2階を移動し、螺旋階段の踊り場まで退避した。

「つつ、痛って・・・」

「しかし、助かったな・・・。ただ、どちらかが死んでもダメだ。途中一人死んだら後が大変だろ?必ず二人で生き残って武蔵大学を卒業するんだ」

「了解っす、ちょっと取り乱し過ぎちゃいましたね」

「マガジンも1個無くなったしな・・・。このまま1階も物色しよう」

 1階には人の気配が無かった。待ち伏せを警戒して一部屋ごとにクリアリングを掛ける。次々と部屋を捜索していると9x19mmの弾薬が30発、ベレッタがもう一丁、ベレッタのマガジン3つ、大きめのリュックが手に入った。銃器の銘柄は同一であるほうがマガジンの融通が利くのでP226とマガジンから弾薬を抜き、ベレッタのマガジンへ差し替え、余った弾薬をリュックの中に入れた。そのまま連絡通路の下を通って6号館1階部分へ向かう。

 途中アナウンスが聞こえた。

 《12時なりましたので、武蔵中高エリア、A1からD2までのエリアを封鎖します。学生は直ちに収縮後の試験会場エリアに移動してください》

「土肥、タブレットの方はどうなってる?」

「あ、そうだった、確かにA1からD2が赤い斜線で覆われてますね。いかにも入っちゃダメ的な」

「移動しなくて済む7号館で助かったな」

 

 スナイパーを警戒して見通しの悪い1階部分を通り6号館へ移動する。6103教室には明らかに人の気配がした。男女の話し声がする。土肥に廊下の警戒を任せ、スリットから覗くと教室の奥側、長机4,5つ離れたところに、サブマシンガンであるMP5を構えた男、拳銃を持った女がいる。

 上手く強襲できればMP5が手に入るチャンスかもしれない。弾薬も9x19mmとハンドガンと共有できる。俺は土肥に目配せをすると土肥も頷いた。音が出ないようにベレッタの安全装置をゆっくりと外し、二人がドアの外を向いているタイミングで勢いよく飛び出した。驚いている男に素早く照準を合わせ発砲するが男は身をよじって回避した。長テーブルを4個挟んで打ち合いになり、サブマシンガンの弾の雨が次々と長テーブルをレンコンのように変え、俺は伏せてやり過ごした。土肥はテーブルの合間から女の足を狙い、女を転倒させたところで弾切れを起こした。

「馬場さん、弾がねっす!」

「おら、もってけ!

 土肥の元にマガジンを滑り込ませると土肥は素早く装填し、女にとどめを刺すと、俺も同様に机の下から見える男の足を撃ち、転倒させたところに2,3発ほど胸部めがけて発砲した。動かなくなったことを確認して近寄る。

「派手になっちまったな、素早く物資を回収して部屋を出よう」

「やっとMP5が手に入りましたよ、これで火力が増えますね」

 俺は男からMP5、リュックから9x19mmの弾薬が30発入るMP5のマガジンを3つ奪い取り、ベレッタを腰のベルト部分に挟めた。MP5にはガンスリングが付いており、体にぶら下げて携行が出来る。少なくともこれで近接戦闘での火力に困ることは無いだろう。俺はMP5のチャージングハンドルを切り込みにひっかけ、マガジンを送り込む。そしてチャージングハンドルを再び元に戻して装填が完了した。そして、空きマガジンに9x19mmの弾薬を込めていくとそれをジャケットの内ポケットに挿入した。

「これで俺達が殺したのは6人か、ずいぶんと上出来な"中間発表"だな。MP5もあるしこれなら積極的に戦闘して物資を補給していけるかもしれない」 

 隣の教室である6102教室をクリアリングすると、ケブラー繊維による防弾ジャケットが二人分置いてある。ハンドガン程度の弾丸なら無傷で済みそうだ。俺達はそれらを着込むと、防弾ジャケットのポケット部分にマガジンを指し込んだ。

「ありがたいっすね、これであとライフルさえあれば無敵じゃないですか」 

 パン!という発射音がA4エリア、2号館の方から聴こえてきた。どうやら数グループが戦闘中らしい。俺達は用心深く6号館の外へ出ると、2号館を覗く。2号館は学食となっており、中は相当広いスペースだ。最大の幅で50メートルはある建物で、いくつものテーブルをまたいで2グループが銃撃戦を繰り広げていた。彼らは弾丸に余裕があるんのか、互いに拳銃を乱射し合い、多くの机をレンコン状に変えていた。俺と土肥は大広場に連結している2号館の職員待機室へ移動し、どちらかが倒れて物資を物色するタイミングを伺う。数度発砲音が聴こえた後、沈黙が訪れた。

「まだ待とう。まだ周辺を警戒しているかもしれない。あと2分待ったら突撃だ」

 ドアに耳を当てるとわずかに2号館大ホール内で動く2つの足音が聞こえてきた。それはこちらに向かってきており、こちら側の組が蹂躙されたことを意味していた。俺はチャンスと思い、音もなく土肥と顔を見合わせる。足音が止んで物色の音が聞こえてきたタイミングで俺はMP5の安全装置を外し、飛び出した。

 その直後、厨房の奥にずっと隠れていたもう一組も出合う。同じ漁夫の利を狙っていた連中だ。彼らの銃口は戦闘に勝利していた物色中の二人へ向いていた。

「馬場さんまずいっす、一端退きましょう」

 俺達はドアを閉め逃走することにした。背後から発砲音と短い悲鳴が聞こえてきた。2号館の外側を抜け、2号館に併設された誰もいない学生ラウンジを抜け、そのまま一号館に入り、入口付近にある地下の階段を使い1号館B1階に忍び込んだ。幸いにも敵襲は無かった。1号館B1階は明りが付いていないので暗く、身をひそめるのにはうってつけだ。階段を降り切ると1001号室、大講義室へ通じるドアがあった。この暗がりでは身動きが取れない。俺と土肥はしばらく身を隠していると、唐突に講義室の明かりがついた。