所感

生活の所感を投稿します。

【小説】児玉マキの日常

 武死大学では教授が死亡した場合、履修者全員が最上位の成績、Sになるシステムだ。あたしらはこういったニッチな需要で存在できる。

 ガンオイルを塗ったスワブ銃口から通す。ガンパウダーの残りカスをふき取るとスライドを戻し、弾倉を込めておく。あたし、児玉マキは生まれついてのヒット・ウーマン。相方は斎藤ハルナ。あたしが二十歳になってから今日までの2年間、バディとしてやってくれている。

 この前の依頼は武死大学に所属する千打教授の暗殺。あたしはピザ配達員の格好をしてキャンパスに向かい、教授棟へ入り込んだ。ほどなくして千打の名札が見えるドアの前に立つと、声帯に力を入れビジネス用の声でこう言う。

「こんにちは、ドミソピザです! ピザのお届けに参りました!」

 中から返事をするターゲットの声が聴こえる。そのままだ、ドアを開けろ。

「ピザ?うちじゃないですけど」

 ドシュ、ドシュ。腹部に一撃を当て動きを止め、2発目で頭部を狙い確実にとどめを刺す。依頼はこれで終了。はい、全員Sね。

 

 今日の依頼は財務報告論1の島福教授の暗殺。ターゲットは講義後に見通しのいい空中庭園に休憩にくるとの情報が添えてあった。あたしは狙撃を試みる事にした。観測者・スポッターとして斎藤ハルナに任せる。

 講義が終わる10分前、空中庭園が見える近くのビルの屋上に移動した。あたしの得物はSAKO社のM85、.308ボルトアクションライフルだ。日本国内でも猟銃として合法的に入手できる。スコープはLeupold社のVX-6HD、ズームは3-18倍で44mmの対物レンズだ。高級品なだけあって明るくクリアな視界、くっきりとしたレティクルで撃ちやすい。

 ターゲットまではおおよそ400メートルといったところか。ハルナが風速計に注目している。

「マキ、東向きの風が秒速4メートル。いつもの125グレインじゃなくて重い弾頭の175グレインを使って。着弾までおおよそ0.6秒かかるわ。左に4クリック回して。重力分を考慮すると2MOA下落する」

「了解、左に4クリック、重力分も考慮にいれる」

「16時10分、講義終了ね、ターゲットの到着予想はあと7分といったところかしら」

あたしは伏射姿勢、バイポッドを展開し、斉藤ハルナはスポッティングスコープを三脚 に立て様子を窺っている。ターゲットの到着は7分と言えどいつあくまで予想だ。いつ訪れても外さないように同じ姿勢をキープし続ける。この忍耐が狙撃には必要だ。

「ターゲットらしき人物を発見、OK、IDは確認したわ。マキ、クリアな状況で狙撃して」

「了解」

 島福教授、ターゲットは空中庭園を一回りすると近くのベンチに腰かけた。柱の一本がちょうどターゲットの上体に対して陰になった。

「くそ、柱が邪魔。 ハルナ、ターゲットは何分で移動するの」

「4分と言った所かしら」

「じれったい!」

「マキ、落ち着いて。彼がまた移動する時こちらから遠ざかる形になるわ。その時に一度胴体に着弾させて、次で止めを刺せばいいだけよ」

 ターゲットはレジュメを確認し終わると腰を上げ、移動を始めた

「マキ、今!」

 ボシュ・・・。秒速800mで射出された弾丸は空気抵抗で減速しながら0.6秒間で400m移動し、ターゲットの腰部に激突した。

「もう一発!」

 あたしはボルトハンドルを後退させ、次弾をチャンバーに送り込む。再びスコープを覗き動きを止めたターゲットに再び発砲した。ハルナがスポットスコープを覗き、ターゲットの様子をチェックすると口を開いた。

「ターゲットの死亡を確認。これで財務報告論1を履修した学生は全員Sになったわ。報酬は死亡届け確認後後日振込との事」

 これがあたし達の日常。あたしとハルナは最高のパートナーだ。