所感

生活の所感を投稿します。

【小説】児玉マキの宿敵

※この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは無関係です。

 

  武死大学では教授が死亡した場合、履修者全員が最上位の成績、Sになるシステムだ。あたしらはそれで食ってる。

 最近、同業者の中のうわさで聞いた。教授を守ることを任務とする、殺し屋を殺す殺し屋、ボディーガードが表れたと。その名も小林大輔(こばやしだいりん)。同業者―競合―ではなく、真っ向からの敵対者が存在することにあたしはどこかワクワクしていた。だって一方的に殺害するのは飽き飽きだもんね。

 

 今日の依頼は社会学の南打教授の暗殺。14時30分の講義を終えるとオフィスアワー前に一度教授棟に寄るらしい。あたしはナイフを片手に教授棟の見通しの悪い場所で待ち伏せすることにした。しかし、その地点には既に先客がいた。男はこちらに歩み寄る。

「お前が、児玉マキか。教授を暗殺する依頼で食っているという下衆か」

「それがどうしたの。あたしの生き様にケチつけないで。そもそもあんた誰?」

「お前ももう知っているだろう。俺が小林大輔だ」

そういうと小林はナイフを取り出し逆手に持つと振りかぶる。あたしは間一髪のところで身をかわし、距離を取った。曲がり角越しに伺うと小林が見える。迅速にコートから拳銃を抜き、安全装置を解除した。

「よく躱したな。お前の同業者は俺の手で殺してきた。俺の行為は結果として教授、つまり学問を守り、国の文化水準を保つんだ。どこかの外野が高度知識人である教授を暗殺することは俺が許さない」

「あんた、国に雇われてんのね」

「その通り、俺の雇い主は内閣情報調査室。総理直属のエージェントだ。ただ俺が所属を名乗った所で数瞬後には誰一人覚えていないがな」

 そういうと小林はリボルバー式拳銃であるニューナンブM60を取り出す。撃鉄を起こす音が壁越しに分かる。けれども発砲音で人目を引くはずだ。小林はそこまであたしを殺すことに容赦ないのか。あたしは階段を駆け上がる。小林の追う足音を背後に5階まで駆け上がると連絡通路を抜け、教授棟から5号館へ移動する。再び階段を降下すると小林の足音は聞こえてこなくなった。

「これじゃ任務の継続は不可能ね。小林とやるか、やられるか。おもしろいじゃない」

 5号館を抜け出し、一気に駆け抜け、キャンパスへ出ると、周辺に賃貸しているアジトに帰ることにした。しかし、その胸はどこか高鳴っていた。